特定非営利活動法人 Human & Animal Bridging Research Organization エイチ・エー・ビー研究機構

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ドクターインタビュー

第5回 筑波大学 産婦人科学 医学博士 佐藤 豊実先生

収録日:2018年5月26日

筑波大学 産婦人科学 医学博士 佐藤豊実先生が婦人科がんついて語ります。

Part1:「婦人科がんの治療の現状」
Part2:「卵巣がんについて」
Part3:「婦人科がんの遺伝的要因の検査方法」
Part4:「婦人科がんの今後の治療や患者さんへのアドバイス」
※動画左上のメニューボタンをクリックすると、再生する動画を選択することが出来ます。

各動画の要旨は以下になります。
■Part1:「婦人科がんの治療の現状」
現在急速に増えている婦人科がんが子宮体がんです。30年くらい前は子宮頸がんが9人に対して体がんが1人というような割合だったのですが、現在は年間の罹患者数は子宮体がんの方が多くなっており、頸がんの1.5倍くらいに子宮体がんが増えているという状況になっています。
子宮頸がんに関しては、若年の方が増えています。昔は60代後半~70代の方が多かったのですが、今は40歳前後の子宮頸がんの患者さんが非常に増えています。
全体の数としては、子宮がん検診等が始まった戦後以降、子宮頸がんは減ってきていましたが、1990年代くらいに底を打ち、少しずつ増えてきています。その増えてきているところが、若年層が非常に多くなっています。
卵巣がんでは、患者さんも30年前くらいまでは年間3000人くらいだったのですが、現在では1万人に届くかそろそろ超えてくるというような状況になってます。その原因としては、昔と比べて日本人の女性のライフサイクルに変化がでてきているということも、一つの原因になっているだろうと思います。
子宮体がんについてですが、子宮体がんは初期から不正出血という症状があるので、その時点で病院に来て下されば、早期のうちに見つけることができます。手術を行うことで、がんによって命を落とす確率は非常に低くなっています。ただ、不正出血はあるけれども、「更年期ではないか」というように、自己診断したり人から言われたりして病院に来る時期が遅れてしまうと、がんが進行してしまいます。そうなると、手術や抗がん剤の治療、場合によっては放射線療法など組み合わせて治療することになります。そのようなことにならないように、症状があったら早く来ていただきたいと思います。
子宮頸がんの場合の症状としては、不正出血やおりものが増えたりしますが、子宮頸がんの場合は、そういう症状がでてきた段階ではすでにがんが進行してしまっているということがあります。子宮頸がんの早期発見は、子宮がん検診しかありませんのでしっかり子宮がん検診を受けていただきたいと思います。
子宮頸がんになってしまった場合でも早期であれば手術、もしくは手術プラス放射線療法で、半分よりも早いうちであれば治る確率が高いとされています。ただ、手術ができないくらいに進んでしまいますと、放射線治療が必要になります。それでも治る確率は半々くらいと思います。
放射線治療は、昔と比べると安全性が高まっていますが、5年後10年後、15年後20年後というところで、副作用として、腟と膀胱とか、腟と腸の方とですね 穴が開いて通じてしまうというようなことも起きてきますので、やはり検診で早くみつけてしっかり標準的な治療で治す、というのが大事だろうと思います。
問題は卵巣がんで、卵巣がんは欧米だと「サイレントキラー」という呼ばれ方をしています。つまり、症状がなかなか出ないんがんで、気づいた時にはもう3、4期と病気が進んでしまった状態でみつかることが多いがんです。
筑波大だとだいたい3、4期の方が60%くらいおります。この状態の場合、手術と抗がん剤の組み合わせでがん状態であっても普通の生活をしていただく、というところしか狙えない患者さんも出て参ります。
もちろん、卵巣がんにもいろいろな状態があって、お腹がすごく膨れてくるくらい大きな腫瘍になっても、状態によっては粘液性がん等であれば、 1期であることもありますので、卵巣がんになったら全部だめだということでは決してありません。
各々の自治体では検診の間隔等を決めて実施しておりますので、そのようなお知らせがあった場合にはぜひ受けていただきたいと思います。かつては、細胞診という検査で検診が行われており、1年に1回というように推奨されていました。しかし最近はこれに子宮頸がんの原因のウイルス、ヒトパピローマウイルス(HPV)に感染しているかどうかのチェックも併せて、細胞診とウイルスのチェックを行い、問題なければ、2年に一度とか、3年に一度とか間隔で良いのではないかと考えられています。海外ではもう間隔を延ばしてやっているところが多くなっています。日本もだんだん多くなってくると思います

■Part2:「卵巣がんについて」
卵巣がんに対しては、検診が有効かどうかっていう臨床試験も行われたのですが、結局、有効だという結論には至りませんでした。漿液性がんというタイプが一番多いのですが、これはともすると、1期2期という早期の状態がなくていきなりお腹の中で、同時多発的に出現するという可能性も示されています。
信州大学での研究では、卵巣がんになった方にいつ産婦人科で超音波とかの検査を受けたかを調べると、3ヶ月前には何でもなかったという人が多い。ところが、その3ヶ月後には3、4期という状態になっている。このように早期発見は非常に難しい、あるいはもともとできないのかもしれません。ただ、粘液性がんや明細胞がんは、成長が大きくなっても1期のことが多いので、どうもお腹が出てきたかな、太ったのかな、と感じたなら産婦人科に来ていただければと思います。
卵巣がんの原因ですが、明らかにこれが悪いんだという、肺がんにおける「タバコ」のようなものはわかっていません。 ただ、最近注目されているのは遺伝性のものがあります。遺伝的な素因を持っている方は、生涯罹患率はたぶん60~70%くらいでありますので、何らかの対応が必要となります。
月経排卵が卵巣がんを増やしている可能性もあります。昔は早めに結婚して、たくさん子どもを産んでおりましたので、妊娠中は月経はありませんので、排卵もありません。授乳中も基本的には、排卵もなく月経もありません。そうすると、卵巣がんというのは、一つの説として、卵が卵巣から飛び出す時に卵巣の一番表面の膜を破って飛び出していくと言われており、この機械的な刺激が多ければ多いほど卵巣がんになりやすい、という説があるのです。つまり排卵が多いほど卵巣がんになりやすい。
今は、産む子どもの数が減っているので、その分、排卵している期間が長くなリ、卵巣がんの原因じゃないかと言われています。
もう一つは、子宮内膜症という病気があり、これは月経の時に子宮の内側の膜から出血するのですが、これが子宮以外の場所にできた場合、これを子宮内膜症といいます。 卵巣にもそれができることがあって卵巣の子宮内膜症になると、月経のたびに卵巣の中で出血していきますから、卵巣が腫れていきます。これは良性なので良いのですが、これががん化することがあります。ただ、先ほどと同じ理屈で、妊娠中は月経が来ませんし、授乳中も基本的には月経が来ないので、月経がない期間が長ければ、子宮内膜症になってても自然に退縮していきやすいし、がんにもなりにくいのです。これがずっと月経がある状態だと、子宮内、卵巣の中にも出血があって一ヶ月に一度くらい常にあって、その出血が毎月毎月ずっとある期間が長いということで、そのうちにがんに変化していく、ということが考えられています。

■Part3:「婦人科がんの遺伝的要因の検査方法」
自分の家系内にどんながんの方がいるのかいないのか、というのを、確認なさるといいと思います。外来で患者さんにご家族でがんの方いらっしゃいますか、と必ず聞くのですが、9 割ぐらいの方はいませんと、おしゃいます。多分、一緒に住んでいるご家族で考えてると思われますが、お爺さんお婆さん叔父さん叔母さん従兄さん、と尋ねると、「あ、いました」と言って一人二人出てきます。現在は2人に1人ががんになっている時代ですので、可能ならば、曾お爺さん曾お婆さんの範囲からお爺さんお婆さんのご兄弟の範囲、姪御さん甥御さん従兄ぐらいのところまで調べてみるといいと思います。
ご自身が卵巣がんになった場合は、遺伝性の可能性があると思われます。アメリカでのガイドラインでは、本人が卵巣がんだったら遺伝子検査をすすめるということにはなっています。日本ではまだそこまでできていませんが、親族にもう一人卵巣がんがいるのであれば、乳がんにもなりやすい可能性があります。
男性の場合、前立腺がんが遺伝の影響を受け易いと言われています。また、肝臓がんも出やすいと言われていますので、そのようながんに罹患された方がいる場合は遺伝子検査を考えても良いと思います。親から子に伝わる確率は50%ですので、全ての方に伝わるわけではありませんので、ご自分が卵巣がんになった場合で、親族にもいらっしゃるのであれば、親族の方に調べていただくのがよいと思います。それで、病的な変異があった場合はご自分も検査を考えてみると良いと思います。検査できるところには、必ずカウンセリングを受けられる部門がありますので、そこでよく話を聞いていただいて、受けていただくのがよいと思います。

■Part4:「婦人科がんの今後の治療や患者さんへのアドバイス」
子宮がんの方のための新しいおクスリが出るめどは今のところ立っていないというのが現状です。
卵巣がんのキードラッグ、治療に使われる一番大事なお薬は、プラチナ製剤というものがありますが、これが効いている患者さんには「PARP阻害剤」というお薬がありまして、これが先の2018年4月18日から保険を使って処方することができるようになっています。 これには非常に期待していまして、臨床試験によるとプラチナ製剤を含む抗がん剤の治療をやって有効だった方に、その抗がん剤が終わった後、メンテナンスのように、服用を毎日していただきます。
試験では症状が悪くなったらそこで終了、ということになるんですが、悪くならないで5年6年7年と飲んでいる方が10%くらいいらっしゃいます。つまり、もしかすると本来治らないだろうと思われていたがんが、たとえ10%の確率であったとしても治っている人がいるかもしれない、ということになります。
この薬が再発の卵巣がんの方にも使えるようになりましたので、機会があれば使っていただきたいと考えております。患者さんの辛い症状も、従来の抗がん剤とくらべると非常に少ない印象があって、患者さんの生活の質、QOLを高めてくれていることも間違いないだろうと考えています。
卵巣がんに関しては免疫チェックポイント阻害剤というものがあります。これの治験がいくつかあり、結果がそう遠くない将来出ると思われますので、これにも期待しています。免疫チェックポイント阻害剤も、再発卵巣がんの方が治る確率が非常に低かったのですが、治してくれる可能性もある、と思って期待しています。
他に、薬ではないですが、子宮体がんや子宮頸がんに関してはロボット手術ができるようになっていくのではないかと 考えています。子宮体がんは既に保険適用になってできるようになっていますが、頸がんに関してもなっていくのではないかと思います。今年(2018年)の4月から産婦人科の領域でもロボット手術が保険適用になりましたのでどんどん実施する施設が増えていくと思われます。
ロボットの場合は、患者さんの術後が非常に楽ですので開腹手術、腹腔鏡下の手術、そしてロボット支援下の手術、というのをうまく使い分けていくと、患者さんの傷の大きさや、術後の痛みとか、 質の高い患者さんが楽な医療を提供できるのではないかと考えています。
大切な点の1つ目は、いわゆるAYA世代の妊娠を考えられる世代の方の子宮体がんも頸がんも卵巣がんも、条件はありますけれどもがんになっても、赤ちゃんを産む力を残した治療、という選択肢がああることです。非常に進んでる方には難しいですが、そういう道がありますので、がんになった=もう子どもは産めないんだ、ということではありませんので、その辺の知識が十分にある婦人科腫瘍専門医の方に、もし子どもを産みたいんだけどがんになってしまうという場合には、婦人科腫瘍専門医がいるところでその医師からの説明を聞いてもらえればよいかと思います。
2つ目は再発なさった患者さんのことです。卵巣がんの患者さんでも、頸がんの患者さんでも体がんの患者さんでも、再発してから10年間くらい、再発しては例えば手術で取るとか、再発したんだけれども腫瘍はあるんだけれども、とりあえずすぐに手をつけるのではなくて、ある程度の大きさになったら、そこだけ放射線をかける、というような工夫をしながら普通に生活をなさっている方がいらっしゃいます。その方達は、今度新しいお薬が出たので、またそれでチャンスが出てくる。
治療はなかなか辛いところがありますが、その辛さはたとえ医師であっても本当のところはわかりません。だとしても、受けて効果があるのであれば断続的でも構いませんから医師とチームになって、つないでいく。次のチャンス、次のチャンスと、必ず出てくるので、ぜひ諦めずにもうすでに頑張っていらっしゃる患者さんに、さらに言うのは酷なのかもしれませんが、もうひと頑張りしていただけたら嬉しいな、と思います。

 

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第4回 千葉労災病院 勤労者脊椎・腰痛センターセンター長 山縣正庸先生

収録日:2017年12月6日

千葉労災病院 勤労者脊椎・腰痛センターセンター長 山縣正庸先生が腰痛の病態と治療の最前線について語ります。

Part1:「腰痛とその原因」
Part2:「変わってきた腰痛の概念」
Part3:「腰痛治療と予防について」
Part4:「腰痛対策の基本」
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各動画の要旨は以下になります。
■Part1:「腰痛とその原因」
腰痛というのは一般的に広い概念であり、単なる腰痛だけではなく下肢痛を伴っている腰痛もあります。3年に一度、国民衛生の動向という有訴率(自覚症状のある人の割合)が厚生労働省から発表されています。それによると、腰痛・肩こりはいつもトップに入って来ており、男性女性とも腰痛は非常に有訴率の高い疾患ということになっています。
どうして腰痛が問題になるかというと、例えばアフリカの遺跡で発掘された人骨をみてみると、狩猟をやっていた時代にはあまり腰痛の人はいません。エジプトとか農耕民族になってくるとだんだん屈んでやる仕事が多くなって、腰椎が変形している遺骨がみつかっています。人間は歴史とともに腰痛を背負ってきたといわれています。2001年に、ニューイングランドジャーナルという雑誌が非常にショッキングなデータを発表しました。アメリカの一般家庭医の先生が腰痛の患者さんを調べたところ、原因が特定できない腰痛が85%もあるという結果がでました。その先生は、原因が特定できない腰痛を「非特異性腰痛」と名をつけて世界に発表しました。それが契機になり、様々な画像検査が進んだとも考えられます。現在はMRIやCT等の画像診断も進歩しまして、今では非特異性腰痛のだいたい7割くらいは特定できる状況になりました。原因として多いのは、筋肉や筋膜の痛み、椎間板の痛み、椎間関節の痛み、仙腸関節といって骨盤よりちょっと下のところにある関節の痛みが、非特異性腰痛として分類されてしまっていましたが、現在では画像診断でそれらがわかるようになってきたと考えられます。一般的に腰痛の原因は部位的に考えられる場合が多いです。
脊椎由来の腰痛、神経由来の腰痛、内臓由来の腰痛、それから血管も腰痛の原因になります。さらに、心因性といって心理社会的な意味、自分の心の状態が原因の腰痛というのも考えられていて、私たちは患者さんを診る時に、この人の腰痛はどこからきているのかというのをこの5つの中から選択して原因を探っています。脊椎由来の腰痛が圧倒的に多いのですが、椎間関節(動きを制御しているところ)、椎間板(体重を支える一番もとになっているところ)、椎体、神経根といって後ろに出ている神経による腰痛もあります。これらを考えて、どの部分でどの組織が傷害されているか、傷ついているかを考えて治療しています。腰痛を起こす疾患というのもいくつかあります。よく知られている腰椎椎間板ヘルニア、すべり症、最近では、腰部脊柱管狭さく症という病気があります。お年寄りになってくると、骨粗しょう症、それの圧迫骨折による痛み、変形性脊椎症、筋・筋膜性腰痛、等様々ありますが、一般的にこれらの病名が、皆さんが整形外科を受診した時につけられるものです。ただしその中で、転移性腫瘍、化膿性脊椎炎、結核性脊椎炎、馬尾腫瘍、そういった腫瘍や感染といったものも腰痛の原因になるので、専門の医師が注意をして診なければならない点です。
2012年に腰痛ガイドラインが策定されました。それによると、重篤な脊椎疾患を疑うものは「red flags」といわれてまして、発症年齢が20歳以下か55歳以上、時間や活動性に関係なく腰痛が出てしまう場合はred flagsです。それから、胸部痛など他の部位の痛みを伴うもの、それもred flagsになります。がんやステロイドの治療をしている、HIV(エイズ)の治療をしている、栄養不良、体重減少が非常に急速に進んだ場合もred flagsといわれています。さらに、ヘルニアのように1本の神経根の症状だったらいいのですが広範囲に神経症状が出ているような場合もred flagsで、私たちが対応しなければならない疾患となります。
発熱を伴う腰痛も注意が必要です。熱を伴っている場合には、化膿性脊椎炎等を考えなければいけないので発熱も重要なサインとなります。お年寄りの方の姿勢がだんだん曲がってきて腰痛になる、成人脊柱変形というのも非常に問題になっていまして、以前はお年寄りだから仕方がないとされていましたが、それをまっすぐにしてあげるとクオリティ・オブ・ライフ(生活の質:QOL)があがるということで、限られた施設ではありますが、成人脊柱変形に対しての腰痛治療を行うという新しい治療法が出てきています。

■Part2:「変わってきた腰痛の概念」
腰痛と生活習慣、これは運動不足と関係があるといわれていてこれはガイドラインにエビデンスとして示されています。 腰痛と喫煙も関連があり、喫煙者の方は腰痛がなかなか治りにくい、発症も多いといわれています。意外と思われるかもしれませんが、腰痛と体重、BMI(Body Mass Index)には関係がないというデータが出ていて、太っているから腰痛がある、痩せすぎて腰痛になる、ということはないと論文で示されています。腰痛は、繰り返し発症するということが特徴です。腰痛の原因にもよるのですが、腰痛の発症と遷延には心理社会的な因子が関係しているといわれていて、腰痛になった人がどういう社会的な立場にあるか、心理状態であるかということが発症の原因になったり、遷延化するということがいわれています。特に精神的な要因として、うつ状態になりやすい人は病態が遷延化し、発症もしやすいといわれています。福島県立医科大学の菊地教授が、どこか傷害されてそこから痛みの物質が出てきて痛みと認識する、その痛みだけではなくて心理的、社会的な概念も取り入れて「生物・心理・社会疼痛症候群」バイオ・サイコ・ソーシャル・ペインシンドローム(Bio-psycho-social pain syndrome)という考え方を発表しました。
社会の状態やその人の心理状態が疼痛の状態をコントロールしている、というようなことを考慮して、腰痛治療の時にその人だけを治すのではなくて、その人のバックグラウンドをみて、治していかなくてはならないというように考えられています。

■Part3:「腰痛治療と予防について」
腰痛治療について安静は必要か?単純な疑問だと思います。
近年、安静は必ずしも有効な治療法とはいえないといわれています。安静にしてたグループと我慢して動かしたグループとをみますと、痛みに応じて活動性を維持した場合の方がより疼痛を軽減することができるということが、データとして裏付けされており、できるだけ動かすことが推奨されています。私も外来で、少し動けるようになったんだから寝てる間もベッドの上で手足を動かしてください、というようにとにかく動かすということを患者さんに勧めています。腰痛で整形外科医を訪れるとお薬をもらったりしますが、患者さんによっては「効かないですよ」と言う方もおります。しかし、実際にはだいたいの人に効果がみられます。しかし、その人が目的とするところまでは疼痛がとれてない、ということがほとんどだと思います。腰痛に対する薬物治療の臨床研究も進んでおり、今では単なる消炎鎮痛剤だけではなくて、抗うつ剤や抗てんかん薬、痛みをコントロールするためのオピオイド等の医療用麻薬も使えるようになっており、疼痛をコントロールできる状況になっております。コルセットも腰痛に対する機能改善には有効でありますが、ただ、ずっと付けていてよいかというと、それも問題で、あるところでは動かしながら治していくということが必要だと考えられます。椎間板や軟骨には血管が通っておりません。そのためじっとしていると栄養が届きません。動かして初めて軟骨は関節液が流れます。椎間板も圧力を加えて取り除くということを繰り返すことで、椎間板の中に栄養剤、栄養物質が浸透していくといわれているので、じっとしていると治療が進みません。そういったことから、腰痛や運動器については、動かしながら治すということが治療の基本になっています。ガイドラインでも、亜急性腰痛の発症から1ヶ月~3ヶ月ぐらいまでは、限定的ですが運動はやった方が良いといわれています。もう少し痛みがあって動けなくなっているとか、廃用性とかになっている、3ヶ月以上ずっと腰痛を続けている人は、多少痛くても運動した方がより腰痛が早く、効率的に治るということがいわれていて、特に慢性腰痛に対しては運動療法がいいといわれています。ただ、よく質問されるのですが、どういう運動がいいのかと。よく腹筋を鍛えましょうとか言うんですが、それだけではダメなので運動の種類によって、例えば腹筋がいいか伸展筋がいいかというのは、いろいろ学会で問題になるんですが、どれだけを鍛えればいいのかというのは、今のところエビデンスはないのです。だから総合的に運動をすることがよくて、私は、わりとお年寄りの方には散歩というか屋外に出て歩いてくるということを勧めています。腰痛にならないためにはどうしたらいいか?ということについてですが、つまり、腰痛の予防は可能かということなんですが、この薬を飲んでたら、この食事をしてたら腰痛にならないということはなく、やはり運動療法は腰痛発症の予防に有効であるということも論文化されていて、普段から体を動かして腰痛を起こさないような対策をとっておく、ということが重要だと思います。それから、仕事をする時に、例えば介護の人とか多いんですけども、前傾姿勢で体軸に力がかかってしまうような時にはコルセットをすると椎間板の内圧がかからないので、それは非常に有効です。だから予防的にコルセットを使うというのも有効な予防法です。

■Part4:「腰痛対策の基本」
腰痛というものは非常に漠然としていて怖いのですが、病態に応じて治療が可能ですから、ちゃんと知って、それに対する対策をとるということが重要です。薬物治療もいろんな薬物が開発されてきているので、今までの単なる消炎鎮痛剤だけではない、いろんな方法・薬物があるので、近年治療法も大きく変わってきており、以前のようにただ痛み止めを出すというような方法ではなくなっています。慢性的な腰痛の場合、長期間お薬を服用されてしまう方がいますが、有効とされているのはやっぱり運動です。セラピストがちゃんとついて、その人にあった運動を勧めていくということが今推奨されています。痛みというものは身体に警鐘を鳴らしているわけですので、本来、生理的に必要なものなのです。だから、痛みを感じるような作業姿勢や運動がいけないわけで、それを工夫することで腰痛を感じない生活をすることも可能なはずです。腰痛そのものは、「red flags」でなければ悪性の病態ではないので、それと上手くつきあい、なるべく腰痛を感じないような生活を送れるようになることが一番良いのです。
最新の治療法についてですが、固定手術だとかいろんな手術法が進歩しており、内視鏡で手術をしたり低侵襲手術としての固定手術といった新しい機械が開発されてきているので、今後、進歩していく分野だと思われます。

腰痛というのは非常に苦しい、患者さんのQOLを下げてしまうものですが、決してあきらめないで、自分のかかりつけの先生を見つけてその先生と一緒に腰痛について対策をたてていく、ということで、少なくとも、苦しんで動けなくなってしまうというのではなく、自分で歩ける状態をいつまでも続けられるかなと思います。
どうぞ、良い主治医さんを見つけてくれるといいと思います。

 

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第3回 HAB研究機構副理事長 寺岡慧

収録日:2017年6月3日

HAB研究機構副理事長 寺岡慧がヒト組織を研究に供するためのわが国の対応、外科手術の現場に協力を求めるための方策、HABの今後について語ります。

Part1:「ヒト組織を研究に供するためのわが国の対応について」
Part2:「外科手術の現場に協力を求めるための方策について」
Part3:「今後のHABについて」
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各動画の要旨は以下になります。
■Part1:「ヒト組織を研究に供するためのわが国の対応について」
死体解剖保存法の17条と18条に死後、摘出した標本の研究や教育用に利用することに関する規定が書かれています。
それには遺族の承諾というのが前提であるということと、承諾がある場合にはそれを標本として保存することができるということが書いてありますが、研究に関しては詳しい規定がありません。
1997年に、臓器の移植に関する法律ができ、9条に死体から摘出した臓器を移植術に使わなかった場合には厚生労働省令に規定する方法によって処理しなければいけない、と書いてあります。その厚生労働省令の第4条には、移植術に使わなかった場合には焼却して処理しなければいけないということが書いてあります。
つまり、臓器として移植用の臓器として提供されたものが移植に使われなかった場合に、それを研究に転用することは現在ではできないということになっています。
他方、亡くなられた方からの組織の提供に関しましては特に法律がありません。そのため、臓器の移植に関する法律には運用に関する指針、ガイドラインがあり、第14条に組織の移植に関する取り扱いが書いてあります。
本人または遺族の承諾があること、それが社会的・医学的見地から適正であれば本人の生前の意思、あるいは遺族の書面による承諾をもって組織を摘出してよいとされています。この場合には組織を移植に使わなかった場合には特段の規定はありません。
したがって、移植用の組織として提供された組織に関しては、使わなかった場合には遺族の書面による承諾があれば研究用に転用しても問題ないと解釈できます。
これが現在の我が国の対応です。
臓器の場合は厚生労働省令の規定により焼却しなければいけない、ということになっておりますが、本人または遺族の書面による承諾がある場合には研究に転用してかまわないというように厚生労働省令の改正を行えば、研究に転用することができるということになります。
すでにお話ししましたように組織は、現在でも既に研究に転用ができます。
本来、臓器を提供される場合にどういう動機でご遺族が提供されるか、ということになりますが、本人の意思を活かしたい、あるいは、本人の意思を尊重して、何らかの形で社会に役立てたい、社会貢献をさせたいというご遺族の希望、さらに医学の発展のために、あるいは他の病気の患者さんのために役立てたいというようなお気持ちが大きな動機になっています。すなわちご本人の意思やご遺族のご希望・要望を原点に立ち返って活かすために、移植に使えなかったら、それを焼却してしまうということではなく、多くの患者さんの治療に役立てるような研究にも用いることができるというようにすべきだと、そのような時代が来ているのではないかと考えております。

■Part2:「外科手術の現場に協力を求めるための方策について」
手術で摘出された標本には、法的な特段の規定がありません。実際には手術で摘出された組織は様々な検査に使われております。これは、研究というよりもその人の治療に関連した検査ということになると思います。ただし、本人以外の治療や成果の応用ということになると、それは検査ではなく研究的な意味をもってきます。
そういったことも含めて、今の段階でも手術で摘出された標本をご本人の承諾があれば、それを研究に転用するということが可能です。手術で摘出されたものが誰に帰属するのかという問題がありますが、通常は患者さんご本人に帰属すると考えられます。ですので、その方の承諾を得られれば、研究に使うことは可能となります。
しかし、あくまで社会的にも医学的にも正当であるという範囲内で行われることになると思います。これに関しましては今後も徐々に広がっていくのではないかと考えています。

■Part3:「今後のHABについて」
現在のHABは外国から輸入した組織や細胞を研究に用いるための仲介役を果たしています。今後の我が国における医学的な研究のための重要な橋渡しの役割を果たしていると思います。しかし問題は、日本人の組織と外国の方の組織とは違うことです。遺伝子等、様々な点が異なっています。日本人のための治療を研究するためには、もちろん外国からの組織・細胞も必要ですが、それに加えて日本の方々からの提供も必要なのではないかと考えます。
そのためには、3つの流れがあります。一つは、バイオバンクです。手術で摘出された標本を、ご本人の承諾を得て研究に転用していくという考え方です。すでにバイオバンクは日本では数カ所運用されております。
もう一つは、臓器の移植のために摘出された臓器を移植に使えなかった場合に、研究に転用できるようにしてはどうかという考え方です。これは、臓器の移植に関する法律の施行規則(厚生労働省令)を改訂して、移植に使われなかった場合には研究に用いることができると改正すれば、今後可能になります。
さらにもう一つの方法としては組織移植のために提供された組織の転用があります。組織の移植用に摘出された組織を研究に転用することは今でも行われていますが、臓器の移植に関する法律が改正されて以来、組織の提供が減少しています。例えば皮膚の移植は非常に重要で、重傷のやけど(熱傷)の患者さんの救命率を上げるには不可欠です。それが現在、提供が少なくて非常に困っているという状況で、皮膚をはじめとした組織の提供を今後増やしていかなければいけません。
現在、臓器移植ネットワークで臓器の提供に関する手続きや斡旋が行われていますが、組織は臓器とは別のコーディネイターにより行われています。このように臓器と組織で分かれているのは日本だけで、諸外国では、組織も臓器も全部、一体化して行っております。今後は日本臓器移植ネットワークで臓器だけではなく、組織の提供についても一体的にやっていただいて、組織の提供を増やしていただきたいと考えます。そうすれば、移植に使えなかった場合に、研究に用いて多くの患者さんの治療のために役立てることができるようになると思います。
厚生労働省令を改正して、移植用の臓器の研究への転用が可能になれば、移植に使用できない場合は、亡くなられた方から善意で提供された臓器・組織を、病気と闘っている多くの患者さんのための研究に役立てていくという、本来の尊い善意の意思を活かせることにもなります。
上記のように組織の研究への転用には三つの流れがあり、これらの流れをどういうふうに調整し、推進していくかということが重要だと思います。HABは上記の三つの流れをネットワーク化してまとめるような立場でやっていったら良いのではないかと考えております。

※ヒト試料を研究に転用する場合は本人または家族(遺族を含む)の書面による承諾を得ています。

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第2回 東海大学医学部消化器外科 中郡聡夫先生

収録日:2017年6月3日

東海大学医学部消化器外科 中郡聡夫先生が膵臓がん治療の現状と将来について語ります。
3部構成になっており、それぞれ以下のテーマで語っております。

Part1:「膵臓がん患者はなぜ増えてきているのか」
Part2:「膵臓がん治療の現状-なぜ治療が難しく、予後が悪いのか」
Part3:「膵がん治療の将来展望」
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各動画の要旨は以下になります。
■Part1:「膵臓がん患者はなぜ増えてきているのか」
膵臓がんの患者さんは増えています。日本では年間1000人ぐらい、死亡数が毎年増えています。
2017年は日本では3万4000人ぐらいの死亡数が予測されています。
増えている原因ですが、ハッキリとわかっていません。高齢化が一つの原因としてありますが、根本的な理由はわかっていません。糖尿病の患者さんが増えていることは、直接的では無いのですが関連しているのではないかと思っています。
しかし、遺伝子の因果関係など、直接的な膵臓がんの原因はあまりわかっていないというのが実情です。

■Part2:「膵臓がん治療の現状-なぜ治療が難しく、予後が悪いのか」
膵臓がんは非常に治療が難しい病気といわれています。
難しい一つの理由に診断の難しさがあります。つまり見つけにくいと言うことです。
膵臓の場所が胃の裏側の奥にあるため、症状が出にくく、症状が出た段階ではかなり進行した状態になっています。
見つかった段階で手術ができるのは全体の2割ぐらいになります。残りの8割は見つかった段階で手術ができないくらいに拡がっているという状態です。
もう一つの治療の難しい理由は、膵臓がんには抗がん剤が効きにくいというものがあります。
最近は徐々に膵臓がんに効く抗がん剤が開発されてきていますので、将来的には希望を持てる状況にはありますが、抵抗性の強いがんといえます。
それから、三番目の理由は手術後の再発率の高さです。
胃がんや大腸がんなどと違い、手術で治る人は4人に1人で、残りの3人は再発してしまいます。
その理由は、膵臓の周りにゲリラみたいにがん細胞が残ってしまっていたり、肺や肝臓などの遠いところに小さな転移が起こったりするためです。
そういった理由から、がんの中でも肺がんと膵臓がんが治療が難しいがんということになっています。
ただ、先ほども述べたように新しい抗がん剤が出てきており、5年生存率も2005年ぐらいは10~15%ぐらいでしたが、現在は10%ぐらい上乗せされています。
最近はさらに良い成績も出てきておりますので、今後は期待できると思います。

■Part3:「膵がん治療の将来展望」
今一番期待されている治療法は、化学療法です。
フォルフィリノックスといって4種類の抗がん剤を集めて投与する方法やゲムシタビンとナブ・パクリタキセルという2剤を併用投与する治療法等、抗がん剤を複合的に併用して投与する新しい治療法が進歩してきており、治療成績が非常に改善しています。
手術できないような患者さんでも抗がん剤治療によって腫瘍が縮小し、手術できるようになります。また、術後の患者さんに使うことで、非常に長く生きていけるようになります。
最近はこのように治療法が進歩しており、手術と化学療法を組み合わせる手法が非常に期待できると考えております。

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第1回 HAB研究機構理事長 深尾立

収録日:2017年4月12日

HAB研究機構理事長 深尾立がHAB研究機構のこれまで、現在、今後について語ります。
3部構成になっており、それぞれ以下のテーマで語っております。

Part1:「これまでのHABのあゆみについて」
Part2:「現在のHABの取組や活動について」
Part3:「今後のHABについて」
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各動画の要旨は以下になります。
■Part1:「これまでのHABのあゆみについて」
従来、人に使う薬の薬物動態を調べるために動物の細胞や動物実験を行って、薬理効果や副作用の有無などを調べていました。しかしそれでは思わぬ副作用が出たり、複数の薬の相互作用による副作用が出たりすることがわかってきました。
そこで、ヒトの組織を使って薬物動態研究が出来ないかと世界的に考えられるようになりました。
1990年のはじめぐらいから世界的にそのようなことが検討され、欧米では当局からガイドラインが作成されました。
日本でも同時期にヒト組織を使用した研究の必要性が叫ばれるようになり、産官学の方々が集まって検討が始まりました。そうした経緯を経て、1994年にHAB研究機構の最初の組織が生まれました。
日本ではまだ日本人のヒト組織を手に入れることは難しいだろうと考え、アメリカから提供を受けることを検討しました。アメリカでは1980年ぐらいからNDRIという組織が作られ、臓器移植に提供された方の様々な組織をいただいて、全米の研究機関に配布するという活動を行っておりました。そこでHABでは、NDRIと話し合い、一定の条件を満たした場合にヒト組織の提供を受けられるという関係を構築しました。

■Part2:「現在のHABの取組や活動について」
日本人の薬物動態を調べるためには、やはり日本人のヒト組織を使用して研究をする必要があります。
まずは、臓器移植に提供された臓器を研究用の試料として利用することが可能になる法的・倫理的検討を行いました。
そのためにHABではまず、薬学学会や医学学会に対してヒト組織を使用した研究の重要性を理解してもらうために学術年会と称した学会を年1回開催することにしました。
さらに、一般市民の方の理解も大変重要ということから、市民シンポジウムという活動も開催しております。
また、ニュースレターや市民新聞等の情報発信活動も行っております。
このような活動を通じて、日本人の臓器移植用に提供されたヒト組織を研究に活用できるような環境作りに尽力しています。

■Part3:「今後のHABについて」
日本人のヒト組織を合法的に倫理的に問題のまない形で提供できる社会にしていくことが今後のHABの一番の目的です。そのためにはまず、臓器移植用の臓器が使えなかった場合には研究用に使える環境作りがと必要と考えております。
ヒト組織を研究に使用することで、新しい薬の開発、発展に役立つということを多くの人に知っていただき、納得できるようにすることが大切だとHABでは考えています。

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