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おくすり情報 No.09 クスリをともだちに -高齢者の方々へ! クスリを安全に飲むための心得-(2006年11月発行)
今から30年前にはわが国の100歳以上のお年寄りが160人ほどだったのが、 2005年には25,353人とついに2万人の大台を突破しました。
65歳以上の高齢人口は3420万人と言われています。
平均寿命は男性78歳、女性は85歳に達しました。
少子高齢化社会になり、必然的に高齢者が若い人に代わって働かざるを得ない時代がやってくるでしょう。
一般に、高齢者は60歳以下の成人に比べてくすりに対する反応が敏感で、副作用の出る頻度が高くなります。
その原因の一つとして、老齢化に伴った、病気ではないからだ全体の機能の低下があります。
例えば、腎臓の働きが低下すると、くすりがからだから外部に排泄される時間が遅くなります。
この様な加齢に伴う機能低下は心臓、肺、腎臓、肝臓などで顕著に現れ、くすりが効きすぎたり副作用が強くなったりします。
これらの加齢による変化には個人差が大きく、同じくすりを同じ量だけ用いても、その影響には人により差があります。特に、高齢者の場合、腎臓の働きは個人によって大きな差があります。
そのため他人に処方されたくすりを勝手に譲り受けて飲むことは非常に危険なことがあります。
したがって、医師、薬剤師の説明や、くすりと一緒に渡される説明書にしたがって、くすりを服用することが必要です。
■いくつかの注意点■
●消化管吸収の変化
消化管(胃、腸)からの吸収も年齢により影響されます。 加齢に伴い胃液分泌機能が低下するために、胃内の酸性度が低下します。
そのために、ある種のくすりはその吸収が悪くなることがあります。
また、高齢化に伴って、消化管血流量や消化管の運動低下などのために、薬物の消化管からの吸収障害が考えられます。
●体内分布の変化
加齢に伴って全身の血液流速が低下したり、体内総水分量の減少や脂肪量の増大などの身体組成の変化により、くすりの体内への分布が変わります。
これにより、脂溶性薬物(水に溶けにくいくすり)の分布容積は増加し、 水溶性薬物(水に溶けやすいくすり)の分布容積は逆に減少します。
したがって、高齢者においては、脂溶性薬物の血中濃度は低下し、その結果、血中からの消失が遅くなって作用が持続します。 一方、水溶性薬物では血中濃度は上昇して作用が増強されます。
また、くすりは血中のタンパク質と結合して身体にいろいろな箇所に運ばれます。 高齢者では血中の総タンパク質濃度は殆どかわりませんが、
多くのくすりの結合タンパク質であるアルブミン濃度は低下するため、 これと強く結合するジゴキシンやワーファリンなどの使用には特に注意が必要です。
これらのくすりは、高齢者では非結合型の遊離型薬物濃度が増加する結果、薬理作用が増強します。
したがって、高齢者においてはこれらのくすりを用いるときには、投与量や投与間隔の調節が必要です。
●代謝機能の変化
代謝機能の変化があります。高齢者では肝臓における薬の分解速度が低下するため、多くのくすりが若年者に比べて長時間体内に留まります。
そのために、高齢者ではくすりの消失時間が延長し、その結果、血中濃度が高い状態のまま持続するので 作用が増強され、副作用の原因となります。
●排泄機能の変化
腎臓は加齢の影響を強くうけるため、薬物の尿中への排泄速度が遅延します。
その結果、高齢者では薬物の血中濃度が増大して、効果が予想以上に強くなったり、副作用や毒性が発現することがあります。
強心剤であるジゴキシンやアミノ配糖体系抗菌薬の消失速度は高齢者で著しく延長することが知られています。