特定非営利活動法人 Human & Animal Bridging Research Organization エイチ・エー・ビー研究機構

おくすり情報 No.24 痛みと痛み止め (2014年10月発行)

おくすり情報 No.24 痛みと痛み止め (2014年10月発行)

監修:岡 希太郎(東京薬科大学 名誉教授)

多くの疾患にともなって痛みが現われます。病気と痛みは切っても切れない関係なのです。
痛みを感じると、あたりまえの日常生活ができなくなって、QOL(生活の質)は大きく損なわれ、激痛となればもうどうにもならなくなります。
経験したことのある痛みならば、ある程度の対応はできるでしょうが、初めて感じる種類の痛みに襲われると、不安になってしまいます。
そんな痛みについてまとめてみました。

■歴史
ヨーロッパで「痛み」とは、「罪に対する罰」を意味しています。人が犯した罪に対して神が与える「罰」のことです。英語の"pain"、フランス語の"peine"は、ギリシャ語の"poeine"またはラテン語の"poena"に由来しています。そして"poeine"からは"penalty(刑罰)"という言葉も生まれたそうです。人気のサッカーで、ひどい反則の罪に対してペナルティーキックの罰が与えられますが、選手は誰もが"痛っ!"と感情の痛みを感じるのです。
では日本語はといいますと、「いとおかし(すごくおかしい)」のように、物事の程度の激しさを表わす言葉が元になっているそうです。ですから英語の語源にあるような「罰」とは無関係のようです。「痛」という漢字の語源にも「罰」の気配は見当たりません。
ヒポクラテスは痛風を「歩けなくなる病気」と記録していました。皇帝ジュリアスシーザーは関節リウマチで悩んでいました。どちらも非常に痛い病気ですから、「罰が当たった」としか考えられなかったのでしょう。
人類が言葉を使うようになってから、痛みの感情は言葉とともに歩んできたようです。
痛みが体の生理学として理解されるようになったのは、せいぜい200 年前からのことです。針の先で皮膚を突いたとき、痛みを感じる痛点があるとの発見は1895 年のことでした。痛みの現代医学はそのときようやく始まったのです。
(さらに詳しくは、滋賀医科大学ホームページ掲載の「連載 痛みの世界史」をご覧ください)

■症状から病気を探る
日常よく経験する痛みを図の黄色の枠に書いてみました。
勿論これら以外の場所が痛むこともありますが、痛みの奥に命に別状があるかも知れない病気が隠れているかも知れない5 つの場所を書いてあります。
赤字はそういう命に影響する病気です。これもまた他にも沢山あるのですが、頻度が高く、症状が重い病気を選んで書いてあります。

● 頭痛について
経験したことのない頭痛には要注意です。そんな頭痛が急に起こったときは、もしかすると脳卒中の可能性もありますから、症状が軽ければかかりつけ医を受診したり、もし意識を失ったときには、気づいた人の助けを借りなければなりません。
普段から高血圧や動脈硬化などをきちんと管理しておくことが大切です。

● 胸痛について
胸の痛みには命に関係する病気が多く含まれています。激しい痛みが起こったら、すぐに病院へ行くことが大事です。
狭心症や心筋梗塞の痛みには不安感が伴うので、そういう心因性の原因で症状がひどくなることも多々あります。
胸痛が起こるタイミング、正確な痛みの位置、痛みが続く時間、吐き気などの随伴症状も、経験で知っていれば大 いに役立ちます。
胸痛といってもお腹との境目辺りは実に紛らわしいものです。右側の上腹部の痛みが胸に広がっていれば胆石の可能性があります。逆に左側ならば急性膵炎かも知れません。
そういう激烈な痛み、言い替えれば生まれて初めて経験する激しい痛みのときは、兎にも角にも病院へ行くことが大事です。

● 腹痛について
腹痛はお腹にあるあらゆる臓器や器官に関係して起こります。それだけでなく、心臓病の痛みが腹部に出ることがあります。
子供から年寄りまで、男も女も、実に多くの人がいろんな腹痛を経験しているはずです。腹痛を症状とする病気が非常に多いからです。
腹痛を感じたとき、痛みの程度や部位、性質、随伴症状などから、その原因をある程度推測できます。下の図を参照して下さい。

①:心窩部(みぞおちあたり)・・・急性胃炎、十二指腸潰瘍、その他
②:右上腹部(右季肋部)・・・A 型急性肝炎、胆石症、胆道感染、その他
③:左上腹部(左季肋部)・・・急性膵炎、慢性膵炎、膵がん、その他
④:へそ部・・・感染性腸炎、虫垂炎、腸閉塞、腹部大動脈瘤、その他
⑤⑥:右・左側腹部・・・腎臓結石、遊走腎、水腎症、腎膿瘍、その他
⑦⑧:右・左下腹部・・・虫垂炎、潰瘍性大腸炎、尿管結石、その他
⑨:下腹部・・・急性膀胱炎、子宮筋腫、月経困難症、前立腺炎、その他


● 腰痛について
腰痛にともなって発熱したり、血尿が出たりすると、それは骨ではなく内臓に異変ありのサインです。ここでは、骨と神経に原因のある腰痛を取り上げます。
加齢にともなって背中が曲がったりするのは骨粗鬆症で、若いうちに骨のカルシウムを増やす食生活と運動がないと、発症してからは我慢の連続になってしまいます。
ある日突然の激痛と下肢のしびれに襲われたら、椎間板ヘルニアかも知れません。筆者は55 歳で経験しましたが、経験者だけに解る痛みかも知れません。
体が横に曲がるなら変形性腰椎症、後ろに反ると痛みが増せば腰椎分離・すべり症、前かがみで痛みが消えれば腰部脊柱管狭窄症、ただ腰が痛いだけなら腰痛症、・・・・他にも色々あるようです。
痛くても医師と相談しながらリハビリを続ける以外ありません。

● 関節痛について
何と言いましても膠原病で起こる関節痛が大事です。特に慢性関節リウマチは炎症性疾患の代表として、ごく最近まで治すことが困難な関節の症状とされてきました。
関節痛の痛みを我慢していると治るものも治らなくなってしまいます。少しでもリウマチが 気になったら、早めに専門医を受診するのがよく、もしリウマチでなければそれから手当しても間に合うのです。

■痛みとくすり 病気と痛みはつきものですが、痛み止めがなかった時代の人々は、「犯した罪の罰が当たった」のだからと信じていたので、祈祷師に頼んでお祓いをしながら、じっと我慢していたのです。
紀元0年前後の古代ローマで、ケシの実からアヘンを作る技術が生まれ、「少量を用いれば苦痛を和らげられる」との記述が残っています。アヘン(現在では麻薬のモルヒネを使う)は最古の痛み止め(鎮痛薬)だったのです。 がんが進行すると激しい痛みをともなうようになります。その痛みを和らげる最善の医療は「個別に最適化された量のモルヒネ」です。最近は在宅医療でも使用されるようになりました。
モルヒネはがん疼痛の治療にとって唯一とも言えるほど優れた鎮痛作用を示しますが、日常の痛み止めとして使うことはできません。
頭痛や歯痛などの日常の痛みにとって、大衆薬(一般用医薬品)としてもお馴染みの痛み止めを表にまとめてみました。 昔、バファリンという輸入薬がありました。中身はアスピリンでしたが、小児が飲んだときの副作用が問題となって、アセトアミノフェンという薬に変わりました。
この薬は解熱鎮痛薬以外の用途として、かぜ薬(総合感冒薬)にも配合されています。
NSAIDs は、炎症反応を強く抑制する副腎皮質ホルモン剤とは異なるという意味で、非ステロイド性抗炎症薬と呼ばれています。
医師の処方薬(医療用)としては、この表にないNSAIDs がありますが、一般用としては副作用が少なくて比較的安全なものだけが選ばれています。
最近の話題として、新宿あたりで蚊に刺されて発症したデング熱患者が、NSAIDs を使ったために血小板が異常に減少した事例がありました。
抗炎症薬のなかには免疫系に作用して血液細胞(血小板も)を減らすものがあります。そういう心配があるときには、抗炎症作用のないアセトアミノフェンを選ぶのです。
現在、NSAIDs のなかで一番人気があるのはロキソニンです。歯医者さんでロキソニンを処方されることも多いのですが、町の薬屋さんで買えるようになったのです。

■まとめ

同じような怪我をしても人によって痛みの感覚は異なります。
先天性無痛症という病気がありますが、この患者は遺伝的な要因で怪我をしても、痛みを感じることが無いため、怪我に気が付かず生命が危うくなることさえあるのです。
片頭痛などは、何度か経験することで、前触れを感じられるようになるのだそうです。そしてあらかじめ予防的に薬を飲めば痛くならずにすむことだってあるのです。
自分で痛さと上手に付き合うようにして、尋常でない痛みを感じた時には救急車をよんででも医者にかかるといった、その判断は大事なことです。
脳卒中の時などは話が出来る間に「救急車を呼んでください」とか周囲の人に話した方がいいのです。
手遅れになれば、本当に後の祭りになってしまいます。「痛みは病気のサイン」なのですぞ。

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