特定非営利活動法人 Human & Animal Bridging Research Organization エイチ・エー・ビー研究機構

おくすり情報 No.25 カロテノイド (2015年6月発行)

おくすり情報 No.25 カロテノイド (2015年6月発行)

監修:岡 希太郎(東京薬科大学 名誉教授)

■はじめに

今年4月1日から新食品表示法が施行されました。3つの法律でバラバラだった成分表示、添加物表示、産地表示などが1本の法律にまとまりました。そして新たに「機能性表示」が加わったのです。
これまでの「機能性表示」は、特定保健用食品(いわゆる「トクホ」)に限られていました。アベノミクスの規制緩和策で枠が外れたのです。サプリメントや健康食品だけでなく、生鮮食料品まで、新食品表示法の影響は未知数です。既に消費者被害を予測してか、全国の消費者団体は被害救済など体制を整えています。一方消費者の立場では、これまで以上に栄養素について知っておく必要が迫られます。もし知らないでいると、被害者にならないとは限りません。この「おくすり情報」では、必須栄養素を中心に薬食同源情報をお届けして行こうと考えています。
今回取り上げるのはビタミンA 群です。これにはいわゆるビタミンA の他に、種々のカロテノイドが含まれます。カロテノイドはビタミンA が不足のときにビタミンA に変化するので、過剰症の心配はありません。加えてカロテノイドの強い抗酸化作用が病気の予防に役立っています。

機能性表示がされている食品

◎特定保健用食品(トクホ)
健康の維持増進に役立つことが科学的根拠に基づいて認められ、「コレステロールの吸収を抑える」などの表示が許可されている食品です。表示されている効果や安全性については国が審査を行い、食品ごとに消費者庁長官が許可しています。
◎栄養機能性食品
一日に必要な栄養成分(ビタミン、ミネラルなど)が不足しがちな場合、その補給・補完のために利用できる食品です。すでに化学的根拠が確認された栄養成分を一定の基準量含む食品であれば、特に届出などしなくても、国が定めた表現によって機能性を表示することができます。
◎機能性表示食品
事業者の責任において、科学的根拠に基づいた機能性を表示した食品です。販売前に安全性及び機能性の根拠に関する情報などが消費者庁長官へ届け出されたものです。ただし、特定保健食品とは異なり、消費者庁長官の個別の許可を受けたものではありません。

■必須栄養素・ビタミンA

これは動物性ビタミンで、レバーや玉子に多い。不足すると欠乏症(夜盲症、皮膚や粘膜の障害、その他)、食べ過ぎは過剰症(吐き気、嘔吐、その他)の原因となります。焼き鳥レバーなど、動物の肝臓を毎日食べているとビタミンA 過剰症のリスクが増えるのです。いくらレバーが好きだからといって、同じものばかり食べていては健康に良くないということです。必須栄養素のバランスをしっかり取るためには、1日に30 種類の食材を食べるのが良いとされています。

欠乏症:不足すると身体じゅうの粘膜が乾燥して、目が乾く、肌がかさつく、風邪をひく、胃腸が弱まる、髪がいたむ、爪が汚れる、などが起こります。うす暗いところで物が見えにくい"夜盲症(鳥目)"で気づくこともあります。最近の家の中は夜でも明るいので、気づきにくいのです。
1日摂取量の上限:1mg(ミリグラム);サプリメントの取りすぎは、頭痛、めまい、吐気に注意。医薬品のATRA は白血病の処方せん薬として使われていますが、重大副作用として催奇形性があるので妊婦さんは使えません。

■カロテノイド

カロテノイドには多くの種類がありますが、そのほとんどが植物性で、動物性はほんのわずかです。ほとんどのカロテノイドは鮮やかなオレンジ色の色素なので、色を見てわかるほどです。褐藻類(ワカメなど)のフコキサンチンの色は例外と言える黄褐色です。
 ビタミンA が不足しているときでも、十分なカロテノイドを食べていれば、それがビタミンA に変化して補充してくれます。ですからカロテノイドも必須栄養素と言えるのです。それでは、食欲をそそるカロテノイドの数々をご紹介しましょう。

β - カロテン

濃いオレンジ色の色素で、ニンジンに豊富に含まれているカロテノイドの代表。ビタミンAが不足すると、β - カロテンがビタミンA に変わって、欠乏症を予防します。多くのカロテノイドのなかでも、β - カロテンの変化率が最大のようです。ですから、ビタミンA の不足を避けるには、レバーを食べるよりニンジンを食べるほうが安全なのです。β - カロテンを多く含む食品は、ニンジンの他にカボチャやモロヘイヤなどがありますよ。

β - クリプトキサンチン

ずばり温州ミカンのオレンジ色の色素。この名を聞いてカロテノイドの一種だと気づくようになりたいものです。β - クリプトキサンチンは温州ミカンの外皮に多く含まれていることを知ってか知らずか、昔の人は「ミカンは皮ごと食べるべし」と言っていました。β - クリプトキサンチンもビタミンA に変化しますが、変化率はβ - カロテンの方が勝っています。冬場に手が黄色くなるほど食べておくと、夏になっても血液中に検出されます。つまりβ - クリプトキサンチンの体内蓄積時間は、他のどのカロテノイドよりも長いのです。そのため病気予防としては、眼底にある黄斑に集まって、青色光による酸化傷害を効率よく防ぐので、加齢黄斑病の予防に良いとのことです。

リコピン

トマトのリコピンが有名です。リコピンは完熟トマトの赤い色素。今世紀になって発見され、そのときのTV ニュースの影響でスーパーマーケットのトマトが売り切れました。と思ったら、次は「トマトジュースの方が効く」とみのもんたさんが言ったとかで、普段は売れ残っている缶詰棚からトマトジュースが売り切れになったとのことでした。今では1年中季節感なしに手に入りますが、本来は真夏の風物詩で、冷やして食べると暑さにまいった身体を癒す最高の食材でした。カロテノイドのなかでも、抗酸化作用が最も強く、そのため病気予防効果が優れているとのことです。

ルテイン

ホウレン草など緑色野菜に広く分布しているカロテノイド。濃い緑色に隠れてカロテノイドの色を見分けることは出来ませんが、根元に僅かな赤色が覗いています。カロテノイドのなかでは地味な存在で、話題になることは少ないですが、緑食野菜が含む栄養素としては無視できない存在です。ちなみに厚労省によれば、1日に食べる野菜の量は300g 以上が良いそうで、その中には必ず緑色野菜も入れましょう。

アスタキサンチン

数少ない動物性カロテノイドで、サケの切り身を染めているオレンジ色の色素。生まれ故郷の川を離れて大海を4年も回遊し、故郷の急流を遡って産卵する。その底知れぬパワーこそ、筋肉の酸化を防ぐアスタキサンチンが生み出しているのだそうです。北海道のヒグマ、北アメリカのグリズリーは年に1 回、キングサーモンを食べて極寒の冬を過ごします。アスタキサンチンは体内に蓄積して、抗酸化作用を発揮しているのです。エビやカニの赤色もアスタキサンチンなのですが、残念ながら殻だけが 赤いので、食べる人はほとんどいません。

フコキサンチン

 ワカメやコンブなどの褐藻類に含まれているカロテノイド。他とは違って黄褐色をしています。抗酸化作用の他に脂肪を分解してエネルギーに変える作用をもっているので、メタボな腹囲を絞り込むダイエットに適しているとのことです。だからといって、海藻だけしか食べないでいますと確実に病気になりますから要注意ですよ。褐藻類がカロテノイドを多く含む食材であることは余り知られていませんが、野菜不足のときのカロテノイドの補給には、ワカメで補うというような食材選びの知恵も役立つかも知れません。「いえいえ私は冬の間にミカンを山ほど食べたので大丈夫」などと言える人が増えてくれば、薬食同源が社会に根づくというものです。

■まとめ

如何でしたか?カロテノイドはニンジンだけではないことがお解りになったことと思います。リコピンとかアスタキサンチンとか、カロテノイドとは思えない名称で食品表示がなされていますが、そんな状況に惑わされてはいけません。その時その時に手に入るカロテノイドを、出来るだけ多く食べるように心がけることが健康な体のために大事なことです。
もう1つ。カロテノイド以外にも抗酸化作用をもつ食材がありますよ。一番有名なのは抗酸化ビタミンのE とC です。そしてその次は「ポリフェノール」。お茶とコーヒーも忘れないでくださいね。

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