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おくすり情報 No.28 血栓治療薬 (2016年11月発行)

おくすり情報 No.28 血栓治療薬 (2016年11月発行)

監修:岡 希太郎(東京薬科大学 名誉教授)

全身をめぐる血液は常に恒常性を保つように仕組まれています。血液組成のバランスがちょっとでも崩れると体調を崩しますし(例えば熱中症)、長引けば病気になります(例えば高血糖から糖尿病)。急いで手当てしないと間に合わないこともありますし、長いこと気づかずに放っておいて治療困難になることだってあるのです。今回はキーワードに『抗血栓薬』を選んで解説しましょう。

■血栓ができるわけ
体に悪い血栓がなぜできるのでしょうか?答えは怪我で破れた血管の穴を塞ぐためです。また、怪我はしていなくても、血管に粥状動脈硬化があったり、静脈弁が上手く働かずに血流が乱れたりすると起こることがあるのです。僅かな穴や傷の周辺に集まってくる血小板やフィブリン(繊維素)が引き金になって、血が固まるのです。もし血栓ができなければ大出血を起こして命が危うくなってしまいます。そこで私たちの血液は2つの方法で血栓を作って出血を止めているのです。しかし、過ぎたるは及ばざるが如しで、出血していないのに血栓ができてしまうと、それが血管を塞ぐように邪魔をして、血液の流れを悪くしたり、止めてしまったりするのです。これが血栓症と呼ばれる病気です。

No.28 血栓治療薬【図1】

■血栓が原因の病気
血栓が大きくなると、血圧や血流の変化が原因となって、血栓の一部がちぎれて血液とともに流れて行きます。そしてやがてどこかの毛細血管に詰まってしまうと、その辺りで酸素不足、栄養不足が起こります。いわば事故のようなものですが、血管が詰まると障害を起こしやすい場所として、脳動脈、肺動脈、冠状動脈、心臓弁膜などがあり、そのために起こる病気として、脳梗塞、心筋梗塞、肺梗塞、エコノミークラス症候群などがあります。

■抗血栓薬の分類
フィブリンと血小板はそれぞれ異なる機序で血栓を作っています。実際にはそれらが混ざり合って丈夫な血栓を作っています。抗血栓薬は、そのどちらかに作用して、血が固まり難くする薬です。フィブリンが作る血栓を予防するのが「抗凝固薬」で、血小板が作る血栓を予防するのが「抗血小板薬」です。目の前の血栓症の患者にどちらを使って治療するのか、その判断は医者に任された大事な任務です。
◎抗血小板薬
血小板血栓は動脈にできやすい性質をもっています。そこで動脈にできる血栓を予防する目的で抗血小板薬が使われます。特に、心筋梗塞や脳梗塞を経験した人は、再発予防のために抗血小板薬を服用することがしばしばあります。代表的な抗血小板薬を表1にまとめます。
No.28 血栓治療薬【図1】

◎抗凝固薬
フィブリン血栓は静脈にできやすい性質をもっています。血液の流れが遅くなることで、血管壁に傷がなくても血液が固まりやすくなるのです。もう1つの原因として心臓の脈拍の異常があります。脈が細かくなったり、不規則になったりすると、その振動によってフィブリンが固まってしまうのです。エコノミークラス症候群もフィブリン凝集が原因になっているようです。フィブリンの凝集には何段階もの化学反応が必要なので、それに合わせて薬の種類も色々なのです。代表的な抗凝固薬を表2にまとめます。
No.28 血栓治療薬【図1】

■抗血栓薬の副作用
抗血栓薬に共通の副作用は、出血傾向を高めること。歯茎の出血が止まらないとか、ちょっとした怪我の手当てにも時間を要します。大事なのは、もし手術が必要な病気になったら、何日も前から薬を止めて、手術時の余分な出血を防がなければなりません。そのために必要な日数は表1に書いた通りで、この間は血が固まりやすくなるので要注意です。
抗血栓薬は、食べ合わせによる副作用も知られています。一番有名なのは「ワルファリンと納豆」の組み合わせで、納豆に含まれているビタミンKがワルファリンの作用を邪魔するのです。「納豆にはナットキナーゼも入っているからいいのでは?」との質問を受けることがありますが、薬に比べるとナットキナーゼの作用はずっと弱いものなのです。

■食べ物の抗血栓作用
いわゆるドロドロ血液という状態は、血液中に脂肪が多い状態です。特に悪玉コレステロールとも呼ばれるLDLが多くなると血栓症のリスクが高まります。そのため日常の食事としては、豚肉、牛肉などの動物脂肪を減らし、青魚を多く食べることが肝心です。野菜や果物に含まれている繊維質は、人の栄養にはなりませんが、大腸に棲んでいる腸内菌の餌となって、健康な腸内菌叢を育てます。善玉菌有意の腸内菌叢は短鎖脂肪酸を産生して、体の免疫機能と代謝機能の維持に大切であることが解ってきました。
また、脂肪分の多い食事を摂ると、食後の血液中に脂肪分が過剰となり、血液がドロドロ状態になってしまいます。特に食後の3~5時間程度はそういう状態が続くので、血液凝固能が高くなっています。食後高脂肪血は食後高血糖ほどの話題にはなりませんが、同じくらい危険な状態と言えるのです。食後の血液凝固能を低く抑える食べ物も研究されています。
最後に、食後の血液をサラサラに保つ食べ物を絵に描いてみましょう。
No.28 血栓治療薬【図1】

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