Index
おくすり情報 No.29 膵臓の病気とくすり (2017年6月発行)
監修:岡 希太郎(東京薬科大学 名誉教授)
■膵臓の役割
膵臓には次の2つの役割があります。
① 消化酵素を分泌する。炭水化物を分解するアミラーゼ、タンパク質を分解するトリプシン、脂肪を分解するリパーゼの3つ、合わせて膵酵素とも呼ばれています。
膵酵素は消化酵素で、膵臓の中にあるうちは働かないようになっていますが、十二指腸に分泌されると活性化されて、非常に強い消化力を発揮します。もし膵臓の中で活性化されると、自分自身を消化して急性膵炎になってしまいます。
② ホルモンを分泌する。血糖値を下げるインスリンと血糖値を上げるグルカゴンの2つがあります。
膵臓ホルモンの中でもインスリンが有名です。糖尿病の薬として、自分で注射できるようになっています。インスリンが少なかったり、働かなくなると、2型糖尿病になってしまいます。2型糖尿病の症状は全身に現れるので、膵臓の病気というよりも全身性代謝性疾患に分類するのが普通です。
■急性膵炎
何らかの理由で急性膵炎になると、強力な消化酵素が周囲の組織を次々に消化して溶かしてしまいます。そうなるともう手がつけられません。最悪の場合には、播種性血管内凝固症候群(DIC)という重篤な状態となり、多臓器不全(MOF)で生命に危険が及びます。
急性膵炎の原因は、男性ではアルコ-ル(35~40%)、胆石(20%)、特発性(原因不明のものが20%)、女性では胆石(30%)、特発性(30%)、アルコ-ル(10%)となっています。アルコールは膵臓の細胞を直接、傷害して急性膵炎を引きおこすと考えられています。飲み過ぎには要注意です。胆石の場合、膵液や胆汁がせき止められると膵液や胆汁が膵管を逆流して膵臓を消化するので、急性膵炎になってしまいます。
急性膵炎の最初の症状は、"みぞおち"から背中にかけての激しい痛み(90%)、次いで嘔気や嘔吐(約20%)、食欲不振、発熱、腹部膨満感(それぞれ約5%)などがあります。
急性膵炎の治療としては、先ず膵臓を安静に保つために絶飲絶食です。その上で、自己消化を阻止するために、蛋白分解酵素阻害薬を投与します。DICやMOFの場合は、緊急手術を含めて高度な医療が必要になります。
■膵臓がん
膵臓がんは臓器がんの中で最も予後が悪く、治療も難しいと言われています。ですから「治療より予防」とも言えるのですが、予防法もまた難しい課題になっています。治療にも抵抗性で治り難く、日本人のデータでは10年生存率は僅かに4.9%となっています。
① リスク因子
喫煙:男性すい臓がんの約2割が喫煙に原因しています。喫煙は唯一確実な膵臓がんリスク因子です。吸っている人は今日にでも禁煙をお勧めします。保険が利かなくなるという話もあるくらいです。
糖分過剰摂取:インスリン分泌量が増えるために、膵臓の過重労働が発がんを誘導すると考えられています。膵臓の負担を減らすためには糖分に限らず暴飲暴食を避けなければなりません。
糖尿病:これも膵臓の酷使が原因と考えられます。糖尿病だと分かったら、必ず専門医を受信して、生活習慣の改善と、もし必要になったら薬の服用もしっかり守って、早めのコントロールが必要です。糖尿病が10年続くと膵臓がんリスクが50%も高くなってしまいます。
膵臓の病気:慢性膵炎には特に注意が必要です。症状がないからといって治療しないと、膵臓がんだけでなくその他の臓器の発がんリスクも高くなってしまいます。症状が軽いうちは治療を避けがちです。本当は、重くなってからでは治り難いことを肝に銘じるべきなのです。
家族歴:もし家族に膵臓がん患者がいると、発がんリスクが13倍まで高まります。遺伝子はどうにもできませんから、食生活を中心に生活習慣にリスク因子をなくしておくことが大事です。発がんは遺伝子よりも生活習慣によるところが大きいのです。
② 治療
膵臓がんの治療法は3つあります。切除手術、抗がん剤投与、および放射線治療です。抗がん剤治療が中心となっている理由として、手術や放射線治療でも抗がん剤が併用されるからです。手術ができない場合には抗がん剤治療のみ、または放射線治療との組み合わせになります。
③ 抗がん剤の種類
現在使われている標準的な薬剤には次のようなものがあります。詳しいことは本日のシンポジウムをお聞きいただくのと、年内に発行予定のプロシーディングスでの復習が役立ちます。
◎手術を行ったときの補助化学療法に使われる抗がん剤
S-1(またはTS-1)は、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウムの3つの配合薬、ゲムシタビンの単独投与
◎がんが進行して手術が出来ない場合や再発した場合に使われる抗がん剤
フルオロウラシル(5-FU)+レボホリナート+イリノテカン+オキサリプラチンの併用投与
ゲムシタビン(ジェムザール)+ナブパクリタキセル(アブラキサン)の併用投与
ゲムシタビン+エルロチニブ(タルセバ)の併用投与
ゲムシタビンの単独投与
S-1(TS-1)の単独投与
◎開発中の新薬(詳細は省略)
抗がん剤には必ず障害作用があるので、抗がん剤を適切に選択して、効果と障害作用のバランスを改善することが大事です。そのためには、担当医にすべてを任せるのではなく、担当医から治療の内容をよく聞き、よく理解し、不安な点や解らない点をなくしておくことが大切です。新抗がん剤の治験情報も漏らさず情報収集しておきましょう。次の2つの情報源が信頼できるものとなっています。
● 肝・胆・膵がん関係の臨床試験リスト(国立がんセンター・がん情報サービス)
● 大学病院医療情報ネットワーク研究センター(UMIN)