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HABの活動について-HABが提供するヒト組織について
HAB研究機構では、米国の非営利団体であるNational Disease Research Interchange (以下NDRI)とInternational Partnership に基づき、日本人研究者に対して研究目的のためのヒト臓器・組織の提供事業を行っています。
- 1.正しい手続きで提供しています
研究者がヒト臓器・組織の提供を希望される場合は、研究計画書と所属研究機関の倫理委員会で当該研究計画書が承認されたことを証明する書類をHAB研究機構に提出していただきます。
提出された書類はHAB研究機構の倫理委員会で、研究計画の倫理性と科学性を確認するための審査を行います。その際に、申請者は所属する機関の倫理委員会の議事録(申請案件に関するもので、抜粋で可)、倫理委員会名簿、倫理委員会内規等を提出して頂きます。
申請がHAB研究機構倫理委員会で承認された場合、申請者から提出された研究計画書は、NDRI に送付され、NDRI 内Review Board で審査がおこなわれます。NDRI で承認された場合、ヒト臓器・組織の提供が開始されます。NDRI で承認されない場合、供給を行う事が出来ません。- 2.提供するヒト臓器・組織について
Organ Procurement Organization (OPO)、組織バンク、医療機関などは次の何れかの方法によりヒト臓器・組織を入手しています。
(1)脳死ドナーから移植のために摘出された臓器・組織で、医学的理由により移植に供されなかった試料
(2)心臓死のドナーから摘出された臓器・組織
(3)手術切除臓器・組織等のうち、患者から研究利用の同意が得られている試料
NDRI は、上記の機関からヒト臓器・組織の提供を受け、研究者に供給しています。
なお、供給されるヒト臓器・組織は、すべてドナーまたはその近親者から研究利用の同意書を得ております。また、すべての臓器・組織には主要病原ウイルス検査結果通知書が添付されていて、HAB 研究機構で管理保管されています。また、ドナーの個人情報保護のため、供給されるヒト臓器・組織はすべて匿名化されています。
HABの活動について-ヒト組織の取扱いに関する倫理ガイドライン
- 研究倫理の基礎知識
ヒトゲノム・遺伝子解析研究から、難治性疾患の標的分子が明らかとなり、様々な標的薬が開発されてきた。Precision Medicineの進展とともに、医学・創薬研究の場におけるヒト組織の研究利用はますます重要となってきています。しかし、日本ではこのような研究を積極的に進める態勢は十分に整っていませんでした。厚生科学審議会の答申(手術等で摘出されたヒト組織を用いた研究開発の在り方について―医薬品の研究開発を中心に―〔平成10年12月16日〕)に基づいて、外科手術時に切除された組織を保管し研究に提供するシステムは存在していましたが、到底研究の需要を満たすものとはなっていませんでした。早くから日本人のヒト組織の提供システムの確立を目指してきたHABは、移植に用いられなかった臓器を、遺族の承諾を得て、匿名化したうえでバンキングするシステムの構築を考えました。これは、海外で実際に運用されているシステムを参考にしたものですが、そのようなことは、「移植に用いられなかった部分の臓器」を焼却処理するとしている現行法(臓器移植法9条・同施行規則4条)の趣旨と相容れないとされ、実現に至っていません。
日本のヒト組織利用の研究態勢の遅れは、研究者の活動に対する社会的理解が十分得られていないことにもよります。今から10年前に、日本学術会議では、「ヒト由来試料・情報を用いる研究に関する生命倫理検討委員会」における審議を経て、大規模な公的ヒト試料バイオバンクの設立を国に要求するという「要望」を出す動きがありましたが、バイオバンクが「公共善」であることが示されていない、研究至上主義、功利主義的な科学者のエゴイズムに見えるという批判が強かったために、現実のものとはなりませんでした。さらに、2007年の「ディオバン事件」、2014年の「J-ADNI事件」など、臨床研究者の不正疑惑は、研究者への信頼を大きく傷つけることになり、ついに、臨床研究法が成立するまでになりました(平成29年法律第16号)。
わが国でヒト組織の研究利用を進めるためには、医学・創薬研究が人々の権利・福利と人間の尊厳のための営みであることについての日本社会の理解と支持が必要でありますが、そのためには、研究者が、基礎から臨床まで様々な研究を行うに際して、法令だけでなく倫理的ルールを遵守していることが必要であります。特に、固有の尊厳を有すると考えられているヒト由来試料を用いた研究については、事情はかなりセンシティブになっています。
以上のようなことから、HAB研究機構は、現在の法令、倫理指針の基礎・概要・適用についての情報を提供するために、HABのホームページに上智大学町野 朔名誉教授の協力を得て「研究倫理の基礎知識」を設けることとしました。- 医学研究に関する指針一覧(厚生労働省サイト)
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1 人を対象とする医学系研究に関する倫理指針
2 ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針
3 遺伝子治療等臨床研究に関する指針
4 手術等で摘出されたヒト組織を用いた研究開発の在り方
5 厚生労働省の所管する実施機関における動物実験等の実施に関する基本指針
6 異種移植の実施に伴う公衆衛生上の感染症問題に関する指針
7 ヒト受精胚の作成を行う生殖補助医療研究に関する倫理指針
8 疫学研究に関する倫理指針
9 臨床研究に関する倫理指針
10 ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針
◎参考文献
町野 朔、ヒト細胞・組織の研究利用の倫理的・法的基礎、レギュラトリーサイエンス学会誌、vol. 6-1: 65-70 (2016)
バイオバンクの展開-人間の尊厳と医科学研究-(奥田純一郎、深尾 立共編)上智大学出版(2016)